障害者雇用の採用・定着・戦力化事例|ADHD・ASDのケースから解説
事例

障害者雇用を、単なる「雇用率の達成」で終わらせず、企業の力へとつなげるには何が必要なのでしょうか。
一人ひとりの特性を見極め、強みを活かせる業務を設計すること。働き続けやすい環境を整え、必要な配慮を重ねること。その積み重ねによって、障害のある方が専門性を発揮し、組織に欠かせない戦力として活躍している企業があります。
本記事では、ASD・ADHDの特性を活かしてCADオペレーターとして活躍するケース、障害者雇用を組織全体の変革につなげた企業、そして入社後のADHD診断をきっかけに働き方を整え、専門性を発揮し続けているケースを取り上げます。
※本記事は、ご本人からお伺いした内容をもとに、個人が特定されないよう配慮した上で構成しています。
ADHD・ASDのAさん|特性を活かした採用・業務設計の事例

図面作成のミスはほとんどなし。信頼を積み重ね、CADオペレーターとして活躍するAさんの働き方
WeMoreでは、障害のある方が企業でどのように活躍しているかを、実際の事例を通してご紹介しています。 今回は、契約社員としてCADオペレーター及び庶務業務を担当されているAさん(精神障害者保健福祉手帳3級/ASD・ADHD)の働き方をご紹介します。
プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 雇用形態 | 契約社員 |
| 勤務日数・時間 | 週5日/1日6時間(短時間勤務) |
| 入社日 | 2021年6月1日 |
| 担当業務 | CADオペレーター、庶務 |
| 障害種別 | 精神障害者保健福祉手帳3級(ASD・ADHD) |
担当している仕事内容
Aさんが担当しているのは、CADを用いた図面作成業務と、あわせて庶務業務です。1日6時間・週5日という短時間勤務のリズムの中で、図面作成という専門性の高い業務にじっくりと向き合える環境で働いています。
得意なこと:図面作成における正確さ
Aさんの強みは、なんといっても図面作成における「正確さ」です。細部まで注意を払いながら根気強く作業を進められる特性を活かし、着実に成果を積み重ねてきました。
周囲からの評価・活躍の場面
図面作成の業務では、自分のミスによる修正がほとんどないことが大きな特長です。この正確さの積み重ねが、周囲からの信頼につながっていると、Aさん自身も実感しています。
「一度お願いした仕事は安心して任せられる」——そんな信頼関係は、日々の丁寧な仕事ぶりの積み重ねから生まれるものです。Aさんのケースは、その好例と言えるでしょう。
ASD・ADHDの特性を強みとして活かす業務選定
ASD(自閉スペクトラム症)の特性には、一つのことに集中して取り組む力や、決められたルール・手順に忠実に作業を進める力が挙げられることがあります。こうした特性は、正確性が求められるCAD図面作成のような業務と相性が良い場合があります。
もちろん、特性の現れ方や得意・不得意は人それぞれです。大切なのは、その人の特性と業務内容がうまく噛み合う環境を見つけること。Aさんの場合、短時間勤務という無理のない働き方の中で、得意な業務に集中できる環境が整っていたことも、力を発揮できた要因の一つと考えられます。
企業としての改善・工夫ポイント
- 業務の細分化とマッチング:高い集中力や規則性を求める業務(CAD等)を切り出し、特性に合致する人材を配置する。
- 短時間勤務からのスモールスタート:週5日・1日6時間など、本人の体力やメンタルに合わせた無理のない労働時間の設定。
- 定性的なフィードバックの継続:「修正がない」「安心して任せられる」といった評価を具体的に伝え、自己肯定感を醸成する。
まとめ
- 契約社員・1日6時間×週5日という短時間勤務で、無理なく安定して働き続けている
- CADオペレーターとして、正確な図面作成という専門性を発揮
- ミスの少なさが信頼につながり、周囲からの評価も高い
- 特性を活かせる業務内容と、負担の少ない働き方の組み合わせが活躍の土台に
WeMoreでは、障害のある方が「自分らしく」「無理なく」力を発揮できる働き方の事例を、今後も発信してまいります。企業の採用担当者様、そして就職・転職を考えている当事者の方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
入社後にADHDと診断されたBさん|定着を支えた職場の配慮事例

「自分から伝える」ことで働きやすさをつくる。専門性を維持し活躍するBさんの事例
WeMoreでは、障害のある方が企業でどのように活躍しているかを、実際の事例を通してご紹介しています。 今回は、放課後等デイサービスで働くBさん(ADHD)の事例をご紹介します。入社後にご自身で気づき、診断を受けたことをきっかけに、周囲の理解を得ながら自分らしい働き方を築いてきた事例です。
プロフィール
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 勤務先 | 放課後等デイサービス |
| 勤続年数 | 入社2年半(うち1年間は現場責任者として従事) |
| 障害種別 | ADHD(入社後、ご自身の判断で受診・診断) |
| 前職 | 幼稚園教諭として約10年間勤務 |
| 働き方の特徴 | 体調に合わせた在宅勤務、業務量の調整、月1回の面談 |
入社後、自ら気づき、診断を受けるまで
Bさんは、放課後等デイサービスで働き始めておよそ1年が経った頃、仕事の中で感じていた困りごとと向き合い、ご自身の意思で医療機関を受診。ADHDの診断を受けました。
診断を受けたあとも、Bさんは特性を隠すことを選びませんでした。職場の自己紹介の場で、自分自身の障害についてオープンに伝えることを選択したのです。その結果、周囲のスタッフがBさんの困りごとを理解した上で、一緒に働ける環境が自然と築かれていきました。
担当している業務・経歴
Bさんは、放課後等デイサービスで子どもたちと関わる業務を担当しています。前職では幼稚園教諭として約10年間勤務しており、子どもと関わる仕事における豊富な経験が、現在の業務にも活きています。
入社から2年半が経過し、そのうちの1年間は現場責任者として、現場のマネジメントも担っています。診断を受けたあとも、責任あるポジションを任され、着実にキャリアを積み重ねている点も、Bさんの働き方を象徴するエピソードです。
得意なこと
- 対人コミュニケーション力:子どもや保護者、同僚との関わりにおいて高い力を発揮
- 業務への集中力:一つひとつの業務にしっかりと向き合う集中力
- 事務処理能力:記録や事務作業を的確にこなす力
- 主体的に仕事に取り組む姿勢:指示を待つだけでなく、自分から動く姿勢
長年の幼稚園教諭としての経験に加え、これらの強みが組み合わさることで、放課後等デイサービスという現場でも力を発揮できています。
職場での配慮・働き方の工夫
Bさんが安定して働き続けられている背景には、職場側の柔軟な配慮があります。
- 対人コミュニケーション力:子どもや保護者、同僚との関わりにおいて高い力を発揮
- 業務への集中力:一つひとつの業務にしっかりと向き合う集中力
- 事務処理能力:記録や事務作業を的確にこなす力
- 主体的に仕事に取り組む姿勢:指示を待つだけでなく、自分から動く姿勢
これらの配慮は、Bさんが自分の障害をオープンにしたことがきっかけとなって整えられていったものです。「困っていることを伝える」→「周囲が理解する」→「働きやすい環境が整う」という好循環が生まれています。
企業としての改善・工夫ポイント
- 心理的安全性の確保とカミングアウトの支援:本人が特性をオープンにしやすい文化を作り、周囲の正しい理解と協力体制を構築する。
- 定期的な1対1の面談(1on1):月1回など定期的に対話の時間を設け、体調の変化や業務上の困りごとを早期にキャッチアップする。
- 柔軟なハイブリッドワークの導入:特性による疲れやすさ等に配慮し、在宅勤務や業務量の調整を柔軟に許可する運用ルールの策定。
まとめ
- 入社後にご自身で気づき、受診・診断に至った事例
- 自己紹介の場で障害をオープンにすることで、周囲の理解を得ながら働く環境を実現
- 幼稚園教諭としての10年の経験を活かし、放課後等デイサービスで対人業務に従事
- 入社2年半、うち1年間は現場責任者として現場のマネジメントも担当
- 在宅勤務の了承、業務量の調整、月1回の面談という3つの配慮が、安定した就労を支えている
Bさんの事例は、診断のタイミングが入社後であっても、本人が困りごとを言葉にして伝え、周囲がそれを受け止めることで、無理なく働き続けられる関係性を築けることを示しています。
障害者13名が活躍するA社|障害者雇用を戦力化した事例

「誰でも活躍できる仕組みづくり」へ ― 人手不足を解消した組織変革のプロセス
WeMoreでは、障害のある方が企業でどのように活躍しているかを、実際の事例を通してご紹介しています。 今回は、自動車試作部品・建設機械部品の製造を手がけるA社(従業員数170名)の社長にお話を伺いました。障害のある社員13名を含む、多様な人材が活躍する現場の様子をお届けします。
会社概要
項目 | 内容 |
|---|---|
| 従業員数 | 170名 |
| 事業内容 | 自動車試作部品・建設機械部品の製造(プレス・溶接・レーザー加工・板金) |
| 障害者雇用 | 13名(知的6名・精神3名・身体1名・短時間勤務1名) |
| 特徴 | 最高齢82歳、平均年齢41歳、定年67歳(再雇用含む) |
| 認定・表彰 | えるぼし認定、もにす認定、新・ダイバーシティ経営企業100選 選出 |
「海外ではできない、大きくて難しいもの」を日本で作る。エンジンフードや大型パネルなど、高い技術力が求められる製品を手がけるものづくり企業です。
ダイバーシティ経営の背景:きっかけは「人手不足」
A社のダイバーシティの取り組みは、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)業種特有の採用難から始まりました。まず外国人採用に取り組む中で、若い頃に外国籍の従業員と働いた経験から「国籍による偏見がなくなった」という社長。現在は外国籍の役員も在籍しているそうです。
続いて進んだのが高齢者雇用。機械化が進んだことで高齢の方でも活躍できる業務が増え、年齢で線を引かない文化が根付いていきました。単なる再雇用にとどまらず、技術伝承の担い手として戦力化されているのが特徴です。
こうした流れの延長線上に、障害者雇用の取り組みがありました。
障害者雇用が始まった経緯:「払ってしまったほうが楽か」からの転換
当初は法定雇用率を達成できておらず、不足分に対して年間約96万円の障害者雇用納付金を支払っていたといいます。「払ってしまったほうが楽ではないか」と考えたこともあったそうですが、そこから雇用拡大へと舵を切ったのがA社の転換点でした。
以降、2014年からは特別支援学校の実習生受け入れを開始。12年間で実習の受け入れは延べ200回を超え、学生実習(2週間・累計150名)、就労移行支援からの実習(1週間・62名)、社会人実習、就労が難しい方向けの1日体験まで、幅広い形での受け入れを行っています。
「できた!」という成功体験が本人の自己肯定感を高め、その評判が学校間で広がっていったそうです。
障害のある社員が担当している業務
A社では、一人ひとりの特性に合わせた業務のマッチングが行われています。
- 軽度知的障害の社員:フォークリフト免許を取得し、現場で頭角を現すまでに成長
- 重度知的障害の社員(22歳で入社):実習を経て入社し、配膳・荷札・名刺制作を担当
- 精神障害(うつ・双極性)の社員:短時間勤務からフルタイムへ移行するなど、体調に合わせた段階的な働き方を実施(体調悪化により退職となったケースもあり)
中でも象徴的なのが、名刺制作の取り組みです。障害のある社員がテプラや名刺作成ソフトを使い、ブラインドタッチで4時間集中して作業を続けられるまでにスキルを磨きました。この取り組みは市との購買契約締結にもつながり、市職員の異動時期には60〜70名分の名刺を受注するなど、実績を積み重ねています。
「重度の障害がある方が作った名刺を買いたい」——そう思ってもらえる関係性を、仕事の質そのもので築いてきたことがうかがえます。
会社の社風・価値観の変化
社長が印象的に語っていたのが、社内の価値観の変化です。
以前は「能力の高い人材が良い」という考え方だったが、今は「誰でも活躍できる仕組みづくり」に軸足が移った。
障害者雇用への取り組みを通じて、組織文化そのものが変わっていったといいます。企業理念でつながることができれば離職率も下がり、働きがいとは「自分の仕事が社会の何の役に立っているか」だと感じられることだと話していたのが印象的でした。
法定雇用率はあくまで手段であり、目的ではない——他社の特例子会社との相互訪問を経て、「制度対応だけでは組織は硬直してしまう」と実感したそうです。
教育・地域への広がり
A社の取り組みは社内にとどまりません。
- 不登校の子どもたちの工場見学受け入れ
- 小学生向けのものづくり体験(30分プログラム)
- 一般社団法人を設立し、就労のきっかけづくりを目的としたワークショップを実施
「働くきっかけをつくること」が目的であり、自社への採用がゴールではない——という姿勢が一貫しています。
企業としての改善・工夫ポイント
- 実習受け入れによるミスマッチ防止:特別支援学校等と連携し、短期間の実習を重ねることで本人と現場の相性を丁寧に見極める。
- 職域開発の推進(名刺制作等):社内ニーズを掘り起こし、障害特性を活かせる新たな付加価値業務を創出する。
- 意識改革と仕組み化の並行:個人の能力に依存せず、多様な人材がミスなく働けるマニュアル化や機械化を推進する。
まとめ
- 人手不足という現実的な課題から始まったダイバーシティ経営が、外国人・高齢者・障害者へと自然に広がっていった
- 特別支援学校との12年にわたる実習受け入れの積み重ねが、採用・育成の土台に
- 名刺制作という一つの仕事を磨き上げ、「買いたい」と思われる関係性を構築
- 「誰でも活躍できる仕組みづくり」という価値観の転換が、組織全体の働きがいにつながっている
制度への対応から始まった取り組みが、やがて企業理念や社風そのものを変えていく——A社の事例は、障害者雇用を単なる「義務」ではなく「経営そのもの」として捉え直すきっかけを与えてくれます。
